レジリエンス

レジリエンスとは

世の中に同じ気候でも風邪をひきやすい人、なかなか風邪をひかない「丈夫な」人がいるように、「困難で驚異的な状況にうまく適応する力」が強い人も弱い人がいるという事が知られています。死別の悲しみから逞しく回復する人も、時間がかかる人もいて、グリーフからの回復に影響を与える一因としてレジリエンス(resiliance)が挙げられているのです。
しかし、レジリエンスというのは一般的に使われる「明るい人」「頭のいい人」といったような尺度と違い、わかりにくい部分がありますが、レジリエンスとはなんなのか、そして、どういった人がレジリエンスが強いと言えるのか、いくつかのヒントを提供したいと思います。

グリーフの状況におけるレジリエンス

このレジリエンス=「困難で驚異的な状況にうまく適応する力」、特にグリーフの状況におけるレジリエンスについて、哲学者のトーマス・アティッグは、このように具体的に説明しているので紹介したいと思います。

私は、誰でも、最悪のグリーフを通り抜けさせる動機や意欲と言うのがあるのではないかと感じています。それを利用する事を簡単に出来る人と、そうでない人がいるようですが。それでも、私たちはそれを私たち自身の中に、時には周りにの人の力を借りて、見つけ出すことが出来ると思います。

それは、私たちの一部(魂、と呼んでおきます)が「人生で最悪の事が起こってしまったが、ここにいる事に意味がある。自分自身の深いところで、自分が世界からもらった、無視するにはあまりにも貴重な恵みや贈り物と繋がろう、深く大切にしていこう、(出来れば)楽しもう、という衝動を感じる。再び人生に自分自身を浸す、自分自身である、ばらばらになってしまったウェブを編み直すというアイディアに魅かれる。今すぐ認めるのは難しいことだが、人生の中で、多くの良い事が私にも起こりえるし、私は周りの残骸をかき分け、継続する意味を取り戻し、抱きしめるのだと信じている」と言うような感じです。

そして、それはまた、私たちの他の一部(霊、と呼んでおきます)が「人生で最悪の事が起こってしまい、私がすごく気に入っていた人生の多くを台無しにしてしまったが、それでも、未知の未来に挑む価値がある。自分自身の深いところで、まだ存在しない物、まだ自分がなっていない者にYESと言いたいと感じる。敗北と見えるようなことを許容することはやめ、その上に立ち上がるのだ。私を押しつぶしてしまいそうな痛みの中で、避けられない物事や、したくもないような変化の中から、それでも一番良い物を拾い上げ、逆境を乗り越え、新しいものに形を合わせ、混沌に意味を与え、その上に勝利を収めるのだ。」と言うような感じです。
私には、こういった気持ちが、喪失の苦しみの中で揺らいでいる、信念、希望、そして愛を最も基本的に肯定するものではないかと思います。これがレジリアンスの核となるもの、勇気の心持なのです。
(トーマス・アティッグのホームページ「Grief's Heart」より)

レジリエンスに関する研究

アティッグが説明するように、レジリエンスはその人が持つ生の力なのかもしれません。それは、非常に強力でありながら、客観視しにくい、計測しづらい指標と言えるでしょう。しかし、このレジリエンスをもう少し客観的に研究対象としている研究者も世界各国にいます。
中部大学の小塩真司をはじめとする研究(小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治:「ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性-精神的回復力尺度の作成」、2002)によると、

  • 新奇性追求(新しい、珍しいことへの興味)
  • 感情調整
  • 肯定的な未来志向

の3つがレジリエンスの構成要素であり、この要素がプラスであると、レジリエンスが強い事がわかっています。ここで興味深いのは、小塩氏はこの研究に当たって当初、レジリエンスの構成要素を「肯定的な未来志向性」「感情の調整」「興味・関心の多様性」「忍耐力」と考えていましたが、調査の結果「忍耐力」と「適応する力」は関係ないことがわかったと言います。「がまん」とレジリエンスは別物だという事がわかります。

そしてさらに

  • 安定した家庭環境や親子関係がある
  • セルフ・エスティーム(自尊心)や共感性が育っている
  • コンピテンス、スキル、ユーモア、コミュニケーション能力がある

の3要素と大きく関係があり、特に自尊心に関しては「自尊心が高いほどレジリアンスは高い」ことがわかった他、「過去のつらい経験をしているからかどうかはレジリアンスに無関係」である事、「過去に苦痛に満ちた経験したにもかかわらず自尊心を高く持っている者は,そのような経験をして自尊心が低い者よりも精神的回復力が高い」ことが明らかにされました。
グリーフに影響を与える要因の適応においても、「過去の死を解決できているかどうか」が要素の一つに挙げられていますが、過去の喪失に適応し、その結果や状態に満足・納得している者は、次の喪失にも適応しやすいという事が出来ると思います。