喪失は全人的な痛み

喪失とは

喪失とは自分にとって大切な個人的、人的、物質的、象徴的資質を失う事をいいます。「大切な」とは大変主観的な言葉ですが、一般的に”景品でもらったハンカチ”を落としたことは喪失とは言いませんが、”母の形見のハンカチ”を失くすことは喪失になりえると言う事が出来ます。ジョン・H・ハーヴェイは重大な喪失の定義を「感情的に投資したものを失う事」としています。
人生の中での重大な喪失の具体的な例としては以下のようなものが挙げられます。

  • 大切な人の死(流産、死産を含む)
  • 離婚・失恋によるパートナーの喪失
  • 自分や愛する人の身体機能や健康の喪失
  • 失業により経済状態の安定、プライド、社会的立場を失う
  • ペットの死
  • 大切な夢を諦める
  • 友を失う
  • 認知症などにより愛する人が変わってしまう
  • 暴力犯罪や性的暴力の被害など(死に至らない暴力の被害)
  • 火事、災害での財産の焼失

あらゆる喪失には痛みが伴いますが、この中でも特に”愛する人の死”は「完全に補完不可能」という点で喪失の中でも最も衝撃的で辛い経験であると言う事が出来ます。死別による喪失を特にビリーブメント(bereavement)という言葉で呼ぶこともあります。
このサイトでは特に断らない限り「喪失=大切な人の死」を意味しますが、喪失はそれだけを意味するのではない事を理解してください。

喪失は想定の世界を破壊する

人は、人生にある程度の予測性を期待しつつ生きています。人は、「世界は基本的にいいところだ」(比較的安全な場所で、正しいことを行おうとする人がほとんどで、希望のある未来がある)とか、「人生には意味がある」(因果応報を信じられる、起こる事には理由がある)とか、「私は価値のある人だ」(能力もほどほどにある真面目な人間で、予想していない事でも大体対処ができる)といったことを信じています。そして、そういった予測の上に、自分の期待や予定、夢を描いています。
時には、そういった想定が間違っている事に気が付くこともありますが、普通は徐々に、基本的想定の改編を行う事が可能です。しかし、人の死による喪失のような場合には、想定の部分的な改定が間に合わないほどの大きな衝撃を受け、想定の世界は大きく破壊されてしまいます。死別の喪失からの回復には、この想定の世界を新たに作り直す事が必要になるけーすが多くあります。

喪失の痛みは全人的

喪失の痛みは全人的な痛みと言われています。喪失の痛み、というとやもすれば感情的、精神的な側面が強調されがちですが、実際には喪失は、感情、精神面以外の広いエリアでも遺された者に影響を与えています。
スピリチュアルな痛みでも詳しく紹介していますが、WHO(世界保健機構)は健康の定義を「肉体的、精神的、社会的、スピリチュアルの健康」としています。これに基づくと、大切な人の死の大きな衝撃は、人間の健康をすべての側面で揺り動かしていると言えるのです。この痛みを、遺された者は全身で感じ、非常に多様な反応を起こします。

喪失の全人的な痛み

  影響
全人的痛み 肉体的影響
  • 身体的な病気を引き起こす。
  • すでに有する病的状態を悪化させる。
精神的影響
  • 感情、認知面に影響を与える
  • 結果として行動に影響が出る
社会的影響
  • 家庭内外での自分の立場や役割を変更する必要がある
  • 経済的な影響がある
  • 家族、親族間の関係性が揺れ動く
  • 詳しくは社会的痛み(2次的喪失)を参照
スピリチュアルな影響