緩和ケアとグリーフケア

医療の領域とグリーフケア:理想とその限界

まず、秋田大学医学部附属病院の緩和ケアセンターの緩和ケアの概念図を参考にして製作した、人が死に至るまで、至ってからのケアの枠組みの概念図を紹介します。
この図により、医療の領域では病が進行するにつれて、治療から緩和ケアに重心を移し、最終的には終末期のターミナルケアに移行して死を迎える様子がわかります。

緩和ケア概念図

クリックで拡大します


そして、緩和ケア、特にターミナルケアの概念の中には病人、そして家族の肉体な痛みだけでなく、精神的、社会的、スピリチュアルな「全人的な痛みのケア」が謳われており、亡くなりつつある方の、心のケアが重要な時期ということが出来ると思います。
現代の医療はこういった緩和ケアのモデルを使用し、また、終末期の全人的な痛みに対応することを「理想」として努力を続けています。しかし、現実問題としては、ホスピスや緩和ケア病棟などの施設で、肉体的痛み以外の精神的、社会的、スピリチュアルな痛みにおいて、十分なケアを受けて亡くなる方は、まだまだ少数派と言えます。がんの患者さん、そのご家族に関してはがんセンターなどに精神腫瘍科(サイオンコロジー)を設け、その心のケアを提供している病院もありますが、こちらも非常に限られた病院での試みで、医療関係者自体、まずこちらの充実を図りたいところでしょう。
グリーフケアの領域については、この概念図に含まれている、という事実から、医療者がこの領域も最終的には医療の一部、少なくとも自らの職業にまつわるテリトリーとして考えていることが伺い知れます。また、実際、緩和ケアの段階では家族の予期的グリーフ も始まっていることもあるでしょうから、そういったことも含めて、医療関係者の間でもグリーフケアに関する関心が強まっているのは確かです。
しかし、医療機関として「死の壁」をこえてグリーフケアに正面から携わっている機関は非常に少なく、わずかに、埼玉医科大学国際医療センター、聖路加国際病院精神腫瘍科、城西病院内科「悲嘆ケア外来」、神戸赤十字病院心療内科などが医療機関として、グリーフケアを行っているのみです。また、それ以外には医療関係者が一種のボランティア、課外活動としてグリーフの問題に取り組んでいます(例:聖路加看護大学看護実践開発研究センターが主催する周産期、新生児を亡くした親の為の会、「お空の天使パパ&ママの会:天使の保護者ルカの会」)。また、医療機関によっては遺族会や合同慰霊祭を行ったりする、グリーフカードを送るなどの活動を行っている所もあるようですが、まだまだ例外的な試みと言わざるをえません。

【用語解説】

緩和ケア

痛みなどの身体的苦痛のコントロールに加えて、精神的、社会的、スピリチュアルな側面をも考慮した総合的な医療のことです。終末期だけではなく、それ以前の早い病期の患者に対しても積極的治療と同時に行われることもあります。患者自身とその家族ができる限り良好なQOLを実現できるよう、さまざまな専門化チームによってケアが行われます。

支持的ケア

支持的ケアとは、がんなどに伴う痛みなどの症状緩和、副作用の軽減を目的とする医療のことです。根治が主目的の「積極的治療」(手術、化学療法、放射線治療)に対応して使われます。

ターミナルケア

治癒の可能性のない末期患者に対する身体的・心理的・社会的・スピリチュアルな側面を包括したケア。延命のための治療よりも、身体的苦痛や死への恐怖をやわらげ、残された人生を充実させることを重視する。終末ケア。

葬儀、宗教とグリーフケア

一方、一般的に死後の世界を取り仕切るとされるのが葬儀関係者、宗教家です。
宗教家は本来、ターミナルケアの場面でもグリーフケアの場面でも、精神的な痛み、スピリチュアルな痛みについてのよき助言者であるはずですが、変わりゆく死の状況で説明したように、現代社会では宗教、特に仏教ののスピリチュアルリーダーとしての機能は求心力を失っており、こういった機能を果たしているとは言えません。
葬儀関係者の間でもグリーフケアへの関心は高まっています。が、この領域でのグリーフに対する興味や理解はは非常に初期の段階で、まだまだ流行の域を出ないと言わざるを得ません。

全人的ケアのトライアングル

このように、医療における緩和ケア、ターミナルケアと死後のグリーフケアは死を境にして強く分断されているのが現状です。
しかし、内容の類似性を考えると、ターミナルケアとグリーフケアは、本来、生前の本人と家族、そして死後の家族すべてに一貫して提供されるべき全人的なケアであると考えることが出来るのではないでしょうか。死を挟んだ「患者と家族の全人的ケア」のトライアングルを先の概念図に書き加えました。こういったとらえ方と実際の活動が行われることを祈って。

緩和ケア概念図

クリックで拡大します